京都では刺繍のことを「繍(ぬい)」と呼びます。
日本の刺繍は仏教の伝来とともに繍仏(しゅうぶつ:刺繍で表した仏画)の技法として伝わりましたが、その後、平安時代に日本の政治・経済の中心である京都で貴族の衣装装飾として日本独自の発展をしてきました。その時、調停に繍技の工人を抱える織部司が置かれたのが「京繍」の起源といわれています
鎌倉時代に武具の装飾に、室町時代には能・狂言の装束に、桃山時代には絞り染などの着物に刺繍が加わった一層華やかな衣装が流行し、江戸時代に入り友禅染が考案されると、色糸のほかに金糸銀糸なども用いて友禅の図柄にボリュームと奥行き感を出す加飾方法としても重宝され、公家・武家・豪商の女性たちの小袖(上着)に多く用いられました。
明治以降には身分さがなくなり、一般の人々にも刺繍の入った礼装用の着物が作られ、着物以外にも袱紗や刺繍絵画といった新たな商品が作られ続けています。弊社でも訪問着・帯のほか、和装に合わせたバッグや財布等小物も作成しています。
京繍は絹糸を使った手刺繍です。工芸士は図柄や刺しゅうを施すものによって、数百種類の色糸からふさわしい色を選び、合わせ(あるいは減らして)、自ら糸を撚り、さまざまな技法を用いて表現します。歴史の中で磨き抜かれた意匠と高度な技術によって作り上げられた、他の追随を許さぬ優れた伝統的工芸品を、きっと実物をご覧になると、宝石のような絹糸の光沢と微妙な色遣いに驚かされることでしょう。日本人の持つ色彩感覚・美的感覚を最大限に生かし、作り出されるのが京繍なのです。
繍匠いながきでは、代々女性だけで工房が営まれ、この美しい京繍を後世に伝えるため、日々伝統と新しい風を織り交ぜながら努力いたしております。
昭和10年 二条高等女子高卒業後、大北刺繍店にて叔母の大北えいに師事、刺繍の修業を始める。
昭和30年 稲垣刺繍教室開設
昭和45年 京都刺繍学園学園長
昭和52年 慶美学園学園長
昭和58年 通産省より、京繍伝統工芸士に認定
平成元年 京都府伝統産業優秀技術賞受賞
平成2年 通産省より、京の名工に認定
花鳥を好み、刺し繍が得意